Daphne du Maurier


ダフネ・デュ・モーリア

last updated: 11 July 2017

Biography +++

【生没】 1907.5.13 - 1989.4.19 (未年生まれ、享年81歳)
【家族】 父親は名の知れた俳優で1922年にナイトに叙せられた。母親は女優、祖父と姉は作家。
【故郷】 コーンウォール地方(イングランド南西端)にある港町フォイに、一家が購入した別荘がある。また、フォイ近くにある屋敷メナビリーを借り受け、1943年から25年以上にわたって修復に多額の財産をかけた。メナビリーはマンダレーのモデルとされる。現在、フォイでは毎年5月にダフネ・デュ・モーリア・フェスティバルが開催される。
【仕事】 18歳の時、初となる短編集『The Seekers』を完成させた経済的な自立を目的として執筆し、22歳の時に短編で作家デビュー。初期の作品は、おじが編集を手掛ける週刊誌Bystanderにて発表。
【功績】 1969年DBE受勲。1996年、女性の業績を評した記念としてモーリアの切手が発行された。
【結婚】 25歳の時に10歳年上の兵士フレデリック・ブラウニングと結婚。作品のファンだった彼が熱烈にアプローチした。1965年、未亡人となる。1994年に出版されたM.フォースターによる伝記にて、両性愛者であることが明らかにされた。
【子】 女子2人、男子1人

 

Bibliography +++

#1The Loving Spirit (1931)
タイトルはE.ブロンテの詩からの引用。この作品の成功により経済的独立を果たした。
『愛はすべての上に』 大久保康雄(訳) <評論社・1950>/<三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1975>
#2I'll Never Be Young Again (1932)
『青春は再び来らず』 大久保康雄(訳) <評論社・1951>/<三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1976>
#3The Progress of Julius 改題:Julius (1933)
1931年、パリにいた頃に着想を得た。
『ジュリアス』 御影森一郎(訳) <三笠書房・1973>
#4Jamaica Inn (1936)
1939年英映画化「巌窟の野獣」(監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:チャールズ・ロートン)。スティーブンソンの冒険小説『宝島』の影響が色濃くみられる。
『ジャマイカ・イン』 山本恭子(訳) <三笠書房・1952>/大久保康雄(訳) <三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1975>
『埋もれた青春』 大久保康雄(訳) <三笠書房・1977>
#5Rebecca (1938) 
『レベッカ』 大久保康雄(訳) <ダヴィッド社・1952>/<新潮文庫・1971>/<三笠書房・1974>
 茅野美ど里(訳) <新潮社・2007/新潮文庫 上下・2008>
C.ブロンテの『ジェーン・エア』の影響が強く見られる。100万部以上のヒット。冒頭文“Last night I dreamt I went to Manderley again”が非常に有名。
1940年米映画化(監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ローレンス・オリビエ アカデミー賞受賞。主人公を演じた女優ジョーン・フォンテインは映画『ジェイン・エア』でも主人公を演じた)。

『レベッカ』の続編
Mrs de Winter by Susan Hill  10年ぶりのイングランド
Rebecca's Tale by Sally Beauman  レベッカが死んで20年後

『レベッカ』同様、屋敷を舞台にしたゴシック小説 『エアーズ家の没落』(S.ウォーターズ

【あらすじ】「わたし」はモンテ・カルロで、妻を亡くしたマキシムに出会う。そして出会って間もないうちに彼から求婚され、マンダレイのデ・ウィンター夫人となる。マンダレイの屋敷は美しく規則的で、全てが前デ・ウィンター夫人であるレベッカがいたときと変わらぬままだった。執事や召使全てが、レベッカが作り上げた習慣どおりに働き、「わたし」が何をしようとしても前の奥様はこうでした・・・と言われてしまう。才色兼備と誰もが絶賛するレベッカに引け目を感じ、常に不安を抱えながら「わたし」はマキシムへの愛をたよりに暮らしていた。だが、ある朝難破船が座礁したことで事態が急変する。レベッカの正体は、レベッカの死因は、マキシムは「わたし」を愛しているのか、全てが明らかになっていく。

   

翻訳書で読みました 【感想】初めは「わたし」が屋敷でレベッカの因習に縛られながらも、負けずに対抗して、最後にはマキシムの愛を勝ち取る話なんかなぁと思いながら読み始めたんです。それが下巻あたりからミステリーな雰囲気が濃くなってきました。お屋敷の雰囲気を含め、話全体がとてもイギリス風な気がします。それに自然の描写がとても鮮やかです。題名にもなっているレベッカは、話の始まりから既に亡き人で、一度も生きた姿では出てきません。人々の回想でだんだん人物像が見えてくる感じなんですが、存在感はとてつもなく大きいんです。
決して展開が速いわけではなく、ゆったりした時間の流れの中で、状況が変化していくという感じですね。私はこんなペースが大好きですが、急ピッチがお好みの方には向かないでしょう。でも、こんなに語り手である「わたし」に感情移入して、読みながら泣きそうになってしまったのは久しぶりです。初めはたよりなく何も知らなかった「わたし」も、後半はしっかりした女性になっていくのですが、共感しやすかったのはたよりなかった方ですね。私自身がたよりない証拠なのかもしれません・・・。しっかりした人は「わたし」の言動にいらついてしまうかもしれません。

翻訳書で読みました 新訳(茅野訳)を読みました。一度読んだ作品を、別の翻訳で再読するのは初めてのことです。前回読んだ時よりも、物語後半のレベッカの影が薄く感じられました。主人公である「わたし」の存在感が濃くなったような気がしました。「わたし」の存在感や自信が大きくなるにしたがって、物語は重暗い様相を帯びていきます。何も知らなかった「わたし」の純粋な心が、マキシムへの愛情でにごっていくような感じです。様々な感情を経験して大人になり、魅力も増したに違いないはずです。ですが、消極的で臆病な冒頭の「わたし」をとりまく空気の方が、清々しく描かれているような気がしました。無垢で純粋な存在は何にも変え難いものなのかもしれません。
大久保訳の方がサスペンス的要素が強く感じられました。茅野訳は読みやすいですが、特に前半はロマンス小説を読んでいるような気になりました。(2010.3)

#6French Man's Creek (1941)
1944年米映画化「情炎の海」(監督:ミッチェル・ライゼン 出演:ジョーン・フォンテイン)。
『若き人妻の恋』 大久保康雄(訳) <評論社・1950>
『情炎の海』 大久保康雄(訳) <東京創元社;世界大ロマン全集2・1956>
#7Hungry Hill (1943)
1947年英映画化「狂乱の狼火」(監督:ブライアン・デズモンド・ハースト 出演:マーガレット・ロックウッド)。モーリア自ら脚色に参加。
#8The King's General (1946)
『愛すればこそ』 大久保康雄(訳)  <評論社・1950>/<三笠文庫・1952>/<三笠書房デュ・モーリア小説集8・1969>/<三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1975>
#9The Parasites (1949)
『パラサイト』 大久保康雄(訳) <三笠書房・1950>/<三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1975>
#10My Cousin Rachel (1951)
『レイチェル』 大久保康雄(訳) <ダヴィッド社・1952>/<新潮文庫・1971>/<三笠書房・1974>
 務台夏子(訳) <創元推理文庫・2004>

『愛と死の記録』 大久保康雄(訳) <三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1975>
『レーチェル―愛と死の記録』 大久保康雄(訳) <ダヴィッド社・1952>
1952年米映画化「謎の佳人レイチェル」(監督:ヘンリー・コスター 出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド アカデミー賞4部門ノミネート)。
【あらすじ】フィリップ・アシュリーは、コーンウォールの屋敷で、当主であり育ての親ともいえる従兄アンブローズと気ままで平穏な日々を送っていた。だが、アンブローズがイタリアで遠い従姉妹にあたるレイチェルと結婚したことで、不穏な空気がたちこめる。アンブローズは、気が狂ったかのような手紙を残し、イタリアで病死する。彼を死に至らしめたレイチェルを憎むフィリップだったが、渡英した彼女の魅力に夢中になってしまう。不器用ながらも精一杯愛を伝えようとし、それに応じるかのような態度をレイチェルはとる。だが、彼の25歳の誕生日、アンブローズの残した遺産が彼のものとなったその日を境に、夢のような日々は終わりを告げ、二人の間は冷え切ったものになっていく。

   

翻訳書で読みました 【感想】主人公は、題名になっているレイチェルではなく、フィリップという25歳の男性です。語りも全て彼の視点からとなっています。結局、この小説はレイチェルに対するフィリップの想いの変化を辿ったものになっています。読んでいると、「恋は盲目」なのねぇと実感させられます。男性に囲まれて育ったフィリップにとっては、まさしく初恋です。レイチェルの言葉やしぐさ全てに夢中になり、後見人であるケンダル氏の忠告も耳に入らず、自分の全てを彼女に与えようとする姿は、冷静な気持ちで見ていると滑稽なのですが、誰もが恋に落ちたらこんな風になってしまう可能性を秘めているんですよね。50年以上も昔に書かれた作品ですが、現代の世でも十二分に起こりうる物語だと思います。
一方、レイチェルの方は、男性にとって、女性の心はこんなにも移り気ではかりしれないものなのかしら、と思うくらい、フィリップから描写された彼女はかなり謎めいた女性になっています。未亡人としてイギリスにやってきて、亡き夫の領地で迎えてくれたのは、あまりにもアンブローズに生き写しのフィリップ。彼女はどのような思いで、彼と接したのでしょうか。レイチェルの本心を知りたくて、この小説を読み進めたのに、真相は明かされぬまま最後のページに辿りついてしまいました。彼女は、ただ衝動的で罪のない女だったのか、それとも計算高い魔性の女だったのか、あるいはその両方の面を持ち合わせていたのかもしれません。小説の終わりに明快な答えを求めたい人には、もやもや感が残るに違いないのでオススメできません。ですが、私は好きな作品です。ただし『レベッカ』の方が好きです。それは『レベッカ』の方が語り手に共感できる要素が多かったせいだと思います。

訳者あとがきで、務台さんによる巻末のあとがきを読むことができます。
Mary Anne (1954)
先祖Mary Anne Clarke(ヨーク公妃)の人生をモチーフに。
『メアリ・アン その結婚/その復讐』 中村佐喜子(訳) <新潮社・1956>
The Scapegoat (1957)
1959年英映画化(監督:ロバート・ハマー 出演:アレック・ギネス)。
『犠牲』 大久保康雄(訳) <三笠書房・1957>
Castle Dor (1962)
The Glass-Blowers (1963)
フランス革命下の1790年代半ばにフランス西部ヴァンデ地方で起こったカトリック王党派の反乱、ヴァンデ戦争に巻き込まれた一家の人生を、ガラス吹きの名匠の娘を通して描く。
 ※ヴァンデ戦争に関する書籍 『ヴァンデ戦争―フランス革命を問い直す』
 ※ヴァンデ戦争を題材とした小説 『聖戦ヴァンデ』〈上〉〈下〉
The Flight of the Falcon (1965)
『愛と死の紋章』 大久保康雄(訳) <三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1974>
The House on the Strand (1969)
14世紀のコーンウォールを舞台にした悲恋。
『わが幻覚の時』 南川貞治(訳) <三笠書房・1975>
Rule Britannia (1972)
『怒りの丘』 浅川寿子(訳) <三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1973>

 

Collection +++

Come Wind, Come Weather (1940)
The Apple Tree  改題:The Birds and Other Stories 米題:Kiss Me Again, Stranger (1952)
「鳥」は1963年米映画化(監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ティッピー・ヘドレン)。
"The Birds""Monte Verita""The Apple Tree""The Little Photographer""Kiss Me Again, Stranger""The Old Man"収録。
『真実の山』 「真実の山」「鳥」「爺さん」収録。 吉田健一(訳) <ダヴィッド社・1952>
『鳥』 「鳥」「瞬間の破片」「動機なし」収録。 鳴海四郎(訳) <ハヤカワポケットミステリ・1963>
『鳥』 「鳥」「リンゴの木」「モンテ・ヴェリタ」収録。 星新蔵(訳) <鷹書房デュ・モーリェ短篇集・1967>
『鳥―デュ・モーリア傑作集』 「恋人」「鳥」「写真家」「モンテ・ヴェリタ」「林檎の木」「番」「裂けた時間」「動機」収録。 務台夏子(訳) <創元推理文庫・2000>
Early Stories (1959)
1927年から30年の間に書かれた短篇を収録。
The Breaking Point (1959)
"The Alibi""The Blue Lenses""Ganymede""The Pool""The Archduchess""The Menace""The Chamois""The Lordly Ones"全8編収録。
『破局』 鳴海四郎(訳) <ハヤカワポケットミステリ・1963>/吉田誠一(訳) <早川書房;異色作家短篇集・2006>
 「アリバイ」「青いレンズ」「美少年」「皇女」「荒れ野」「あおがい」収録。
Not After Midnight 米題:Don't Look Now (1971)
"Don't Look Now"1973年英・伊映画化(「赤い影」 監督:ニコラス・ローグ 出演:ドナルド・サザーランド)。
『真夜中すぎでなく』 中山直子(訳) <三笠書房デュ・モーリア名作シリーズ・1972>
『いま見てはいけない』 務台夏子(訳) <創元推理文庫・2014>
The Rendez-vous and Other Storises (1981)
The Doll: Short Stories (2011)
長年発見されなかったモーリア初期の短編を収録。‘The Doll’にはレベッカという悪女が登場する。
『人形』 務台夏子(訳) <創元推理文庫・2017>

 

『デュ・モーリア作品集』
全10巻 大久保康雄(訳) <三笠書房・1965~67>
 1.愛はすべての上に 2.青春は再び来らず 3.埋もれた青春 4.レベッカ(若い娘の手記) 5.燃える海 6.愛すればこそ 7.愛の秘密(パラサイト) 8.愛と死の記録 9.美しき虚像 10.愛と死の紋章

 

Non fiction +++

Gerald-A Portrait (1934)
父に関する伝記。
The du Mauriers (1937)
モーリア一族の評伝。
The Infernal World of Branwell Bronte (1960)
ブロンテ姉妹と兄との確執を描いた。
Vanishing Cornwall (1967)
コーンウォール地方の旅行本。ダフネが文章を書き、息子の写真を掲載した。